ノリコのお布団で添い寝ブログ

ファンシーな煩悩のOLさん

ep.1

きっとこの世が終わる時ってこういう感じなのかなって思うよ。
と、あの子は言った。
これは2013年の12月31日のこと。わたしはあの子とホテルのベランダにいた。二人ともまだタバコを吸っていて、ベランダの灰皿の周りは黒々グレーの点々がたくさん落ちていた。

空には赤や緑、眩しい金色の花火が上がっては消え、上がっては消えている。
二人で轟音に耳を痛めながら、空を仰いでいた。間も無くこの冬の魅惑の時間か終演を迎えんとしていることを、聞き取りにくいアナウンスが知らせていた。

2014年12月31日、今日また去年と同じホテルにいる。前回とは違う部屋だがベランダには去年見たような灰皿がある。去年は無かったイスもある。
ここはわたしの暮らす街より年間を通して平均気温が高い。
おかげで師走だというのに半袖で過ごせる。それだけで十分に幻想的な気がしてしまう。

2013年12月31日
彼女は真新しいサンダルを履いていた。
「ストラップだけ色が違うんだ。かわいいね、それ。」とわたしは言った。
彼女は「アレがくれたの。でもわたしアレ殺しちゃった。」と、さらりとわたしに投げ返してくる。
いつも不謹慎なことを言いたがる彼女だから、わたしも少し乗り気になって彼女にボールを投げる。
「アレの遺体はどうしたの?」
「小さくしてちょっとずつ埋めてきた」
「そう、大変だったね。ご苦労さま。」
彼女の小さな体で成人男性を細切れにすることも、それを小分けにして埋めることも出来るはずはない。
なにより彼女がそれなりの賃金の元それなりのテクノロジーを有して動くことのできる公の目から逃れられる筈がないのだ。
300mlあるかないかの瓶のアルコールは丸くて白いガーデンテーブルに沢山並んでいる。
たまにそのピンクやグリーンの酒類に口を付けたり、そんな話をしながら今日この観光地で何よりの目玉となる花火が打ち上がり出すのを待っていた。

彼女がタバコを切らす頃、それは突然始まった。
話に夢中になっていたから、すっかり日も落ちたことにすら気付かなかったがまだ地表に近いところにオレンジの残る空に勢いよく花火は上がって行く。
何万発、何十万発、こんな空を見るのは初めてで二人とも喋ることすら忘れてしばらく空に見入っていた。
不意に「きっとこの世が終わる時ってこういう感じなのかなって思うよ。」と、あの子は言った。
「こんな楽しい終末なら大歓迎」わたしは笑って応えたが、彼女には聞こえていないようだった。


ひとりまたここを訪れようと思ったことに何か意味があるわけではない。
わたしはタバコをやめた。だが毎日は何も変わらない。明日も明後日も。
懐かしい轟音が辺り一面に一気に広がる。
空は原色ばかり無造作に広げたパレットのよう。
あの子が言ったことをまた思い出す。わたしも出来れば、この世が終わるときにはこれくらい煌びやかな空をうっとりと眺めていたい。